キル・ビルのそんなこと 100+1
01■ミラマックスのカンパニー・ロゴに続いて現れるのはタランティーノが愛する香港の老舗映画制作会社ショウ・ブラザースのカンパニー・ロゴ。ただしアメリカなどでは、このロゴが出てこないバージョンもある。
02■その次に現れるのは深作欣二監督への献辞の一文。ただし、これが見られるのも日本版のみ。深作監督はタランティーノが最も尊敬する監督の一人で、深作監督が撮った『いつかギラギラする日』の続編をタランティーノが撮るという企画があったほど。そして逆に、深作監督の遺作となった『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』(2003)ではタランティーノがアメリカ大統領役で出演するはずだったが、『キル・ビル』の撮影の遅れからスケジュールが合わず実現しなかった・・・。
03■本編のオープニングは血みどろのユマ・サーマン(本当はウマ・サーマンと発音します)扮する ブライドの顔のアップ。モノクロの美しい画面だが、このモノクロ・フィルムはメチャクチャ高いフィルムを使って撮影されたんだとか。実は『キル・ビル Vol.2』の冒頭もモノクロで、『キル・ビル Vol.1』では描かれなかった教会での大殺戮シーンをじっくりと見せてくれる。言葉だけで語られていた殺された黒人のオルガン弾きをサミュエル・L・ジャクソンが、牧師の役で監督権俳優のボー・スヴェンソンがカメオ出演している。
04■ブライドの顔を“Bill”と刺繍されたハンカチで拭くのが、デヴィッド・キャラダイン演じるビル。タランティーノが尊敬するブルース・リーが企画したテレビ『燃えよカンフー!』(72−75)と映画『サイレント・フルート(77)の両方に主演したことで、憧れの俳優の一人。ビルはフルートの名手という設定で、もちろん『サイレント・フルート』へのオマージュだが、実際にキャラダインもフルートの愛好家でよく持ち歩いていて、気が向くとどこでも吹くらしい。実はこのビルの役を最初にオファーされたのはウォーレン・ビーティだったそーな。でも断ってしまったらしい(もったいない!)。次に依頼されたのがなんとケビン・コスナーだったが、こちらも断ってしまったらしい。最近落ち目なんだから受ければいいのに・・・。
05■このビルの名前の刺繍入りハンカチは日本で配給するギャガ・コミュニケーションがレプリカを作り、マスコミに配った。ファンだったら絶対欲しいレア物だ!
06■タイトル・バックに流れるのはナンシー・シナトラ(フランク・シナトラの娘さんで、『007は二度死ぬ』の主題歌を歌ったのもこの人)の「バンバン」。歌詞をよく聴くと、この映画のオープニングにピッタリとわかります。1966年のアルバム『How Does That Grab You?』に入っている曲で、シェールのカヴァーでも有名な曲。
07■この映画の撮影監督は『プラトーン』や『カジノ』の名カメラマンのロバート・リチャードソン。彼にどうしても撮影をしてもらいたかったタランティーノは、2002年の2月14日のバレンタインデイにバラの花束と一緒に『キル・ビル』の台本を贈ってくどいたんだそーな。けっこうキザ?
08■『キル・ビル』はタランティーノのセオリー通り、時間軸が分解されていて、いきなり“第1章 2番”から始まる。ヴィヴィカ・A・フォックス演じるヴァニータ・グリーン、暗号名コパーヘッドに早くも遭遇するが、出会った瞬間に流れるクインシー・ジョーンズの「鬼警部アイアンサイドのテーマ」は『鬼警部アイアンサイド』へのオマージュでも、もちろん『ウィークエンダー』(タランティーノが見てたわけがない!)へのオマージュでもなく、ショウ・ブラザースのカンフー映画『キング・ボクサー/大逆転』(72)で主人公のロー・リエが怒るとサイレンともにこの曲が流れたことへのオマージュ。ちなみに『キング・ボクサー』はこの曲を無断使用してました(笑)。
09■このヴァニータのキャラクターは『ジャッキー・ブラウン』で主演もした、タランティーノのアイドル女優パム・グリアが『コフィ』(73)や『フォクシー・ブラウン』(74)などブラックスプロイテーション・ムービーで演じた強い黒人女性キャラへのオマージュ。
10■幼稚園から帰ってくるヴァニータの娘の名前ニッキーは、タランティーノが出演した『リトル・ニッキー』へのお返し。
11■ニッキーに自己紹介するブライドだが、その本名のところにはなぜかピー音が入って消されている。これは観客が気になって何度も見に来るようにと昔の映画が使った手法のパロディ。どんな名前なのか気になる方は『キル・ビル Vol.2』をご覧ください。ダリル・ハンナ扮するエル・ドライバーがその名を呼びます!
12■ヴァニータがコードネームについて「ブラック・マンバは私の方が似合う名ね」と文句を言うのは、タランティーノのデヴュー作『レザボア・ドッグス』でミスター・ピンクが「ピンクはいやだ」と文句を言ったことのセルフ・パロディ?
13■母親を殺してしまったブライドがニッキーに向かって言う「大きくなってまだ許せなかったら、待ってるわ」というセリフ、実は後への大いなる複線だった! タランティーノの最初の構想では『キル・ビル』は三部作の予定で、本来の『キル・ビル Vol.1』はブライドが5人へ復讐する物語。『キル・ビル Vol.2』は両腕を切られたオーレンイシイの弁護士ソフィ・ファタールが、今度は逆にブライドに復讐を仕掛けていく話。そして『キル・ビル Vol.3』はニッキーとブライドの娘たち次世代の復讐物語・・・というものだったが・・・、『キル・ビル Vol.1』の時点で2本になってしまったために、三部作構想は残念ながら白紙になった模様。
14■ブライドが復讐を達成すると聞こえてくる千葉真一の「武士たるもの、戦いに臨んでは己の敵を倒すことに専念すべし」というナレーションは、テレビ版『柳生一族の陰謀』のオープニング・ナレーションそのまんま。
15■続いては“第2章 血塗られた花嫁”。このタイトル『The Blood Splattered Bride』はビセンテ・アランダ監督のフランス映画『La Novia ensangrentada』の英語タイトル『The Blood Spattered Bride』のパロディ。
16■舞台は4年6ヶ月前のエルパソ、惨劇があった教会。カーラジオから流れるチャーリー・フェザーズが歌う「サートン・フィメール」をバックに現れる、マイケル・パークス演じるアール・マッグロー保安官は、タランティーノが脚本と出演した盟友ロバート・ロドリゲス監督の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(96)にも出てきているキャラクター。映画の冒頭のほうでジョージ・クルーニーとタランティーノ演じるゲッコー兄弟に酒屋で殺される保安官がアール・マッグロー。
17■このマッグロー保安官が息子のことを“息子1号”と呼ぶのは、往年の探偵映画『チャーリー・チャン』シリーズへのオマージュ。
18■場面は変わってブライドが収容されている病院。口笛を吹きながらやってくるエル・ドライバー。この口笛は巨匠バーナード・ハーマンが1968年のイギリス映画『密室の恐怖実験』に書いたメインテーマ。
19■この一連のエルが病院の廊下を不気味な雰囲気を漂わせて歩くのは、ダリオ・アルジェント監督の名作『サスペリア2』(75)の不気味な絵が飾られた廊下のシーンへのオマージュ。
20■病室のブライドと着替えるエルに、画面がふたつに分かれるスプリット・スクリーンはブライアン・デ・パルマ監督お得意の手法。
21■ナースへのコスプレ・・・じゃなかった変装を済ませたエルが病室から出ると、アイパッチがちゃんと赤十字になっている(そんなナースいねぇーよ!)。これはクリスティーナ・リンドバーグがアイパッチの復讐女を演じたハードコア・ポルノ『They Call Her One Eye』(74)のキャラクターをそのままいただいたモノ。ちなみにタランティーノは参考にとこのビデオをダリル・ハンナに見せたところ、実はダリルは40才を超えた現在までハードコア・ポルノを見たことがなかったらしく、ものすごいショックを受けたらしい。役どころは過激だが、ダリル本人は純情可憐だったのだ!
22■このダリル・ハンナ演じるエルとブライドの戦いは『キル・ビル Vol.2』の中盤で見られるが、金髪大女の戦いをタランティーノは、東宝怪獣映画の名作『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(英語タイトル『The War of Gargantuas』)』に見立てて『The War of Blonde Gargantuas』と呼んでおり、エルのセリフにも「ガーガンテュアス」という言葉が出てくる。実はタランティーノはこの『サンダ対ガイラ』が大好きでレーザーディスクも持っているほど。
23■ブライドを薬殺しようとしているところにかかってくるのが、ビルからの電話。ここでもビルの顔は映らず、服部半蔵の日本刀をもてあそぶ手のみ。まるで007シリーズに出てくる、顔は映らずに腕に抱いた白猫をなぜている手のみ映る、スペクターの首領エルンスト・スタブロ・ブロフェルドのよう。
24■目覚めたブライドが撃たれた頭を触って、金属プレートがコンコンと音をたてるのは、トビー・フーパー監督のブチ切れスプラッターの傑作『悪魔のいけにえ2』(86)に出てくるベトナム戦争で負傷した頭に金属プレートをつけている殺人一家の長男チョップのオマージュ。
25■目覚めたブライドが、自分の赤ちゃんが女の子だとか、4年も眠っていたということをなぜ知っているのか不思議だ・・・?
26■昏睡状態にあったブライドをレイプし続けていたバックが客を連れて病室に入ってくるが、このニックの胸のポケットを見るとド派手なサングラスがひっかけてあるが、このサングラスはタランティーノの初脚本作でトニー・スコット監督の『トゥルー・ロマンス』(93)で、クリスチャン・スレーターが演じたクラレンスがかけていたエルヴィス・プレスリー・スタイルのサングラスと同じもの。
27■そのバックが拳に“FUCK”と刺青を入れていて、「名前はバック、目的はファック」と自己紹介するのは、トビー・フーパー監督の『悪魔の沼』(75)でロバート・イングランドが演じたレイプ魔が言う「名前はニック、目的はファック」のオマージュ。
28■バックが乗っていて、後にブライドの愛用車(?)となる黄色いプッシー・ワゴンは、そのロゴの書体もタランティーノが決めたほどのお気に入りで、その前はミュージカル『グリース』の「グリースド・ライトニング」というトラボルタが歌うナンバーの歌詞から取られている。撮影終了後はタランティーノの自家用車となった・・・。
29■プッシー・ワゴンの中で自分を痛めつけた毒ヘビ暗殺団のことを回想するが、この時に出てくる毒ヘビ暗殺団女性3人が着ているハイネックのユニフォームは、日本ではビデオのみとなった『シークレット・フィンガー』(73)からのいただき。マイケル・マドセン演じるバド(実はビルの弟)はどう見ても『レザボア・ドッグス』のミスター・ブロンドそのまんま。
30■そしてルーシー・リュー演じるヤクザの女親分オーレン・イシイの過去を描くアニメ・パートに移る。オーレン・イシイの名前はタランティーノが尊敬する日本の映画監督に石井輝夫、石井隆、石井聰亙と、石井が多かったから。オーレンのほうは千葉真一主演のテレビシリーズ『影の軍団?』に登場した志穂美悦子演じるお蓮から取っている。だから本当はオーレン・イシイではなくオレン・イシイが正しい!
31■このアニメは『Ghost in the Shell 攻殻機動隊』(95)やタランティーノお気に入りの『Blood The Last Vampire』(2000)を制作したプロダクションI.G.が担当している。プロダクションI.G.はこれまであまりアニメアニメした作品は作ってこなかったが、タランティーノの依頼はマンガをそのまま実写にしたようなもので、逆の志向性に興味を引かれ参加することになったとか。ちなみに打ち合わせに来たタランティーノは身振り手振りでイメージを伝えたらしい(目に見えるようです・・・)。このアニメ・パートでお気に入りのキャラクターがニヒルに髪をかきあげるプリティー・リキで、リキの話になるとつい髪をかきあげてしまうほどの入れ込みようだったとか。
32■立派な(?)殺し屋になったオーレンがライフルで暗殺するところは、リュック・ベッソン監督の『ニキータ』(90)からで、ニキータと同じデザート・イーグルを使っている。
33■オーレン・イシイの生い立ちの次は、我らが千葉ちゃんが演じる服部半蔵が登場する“第4章 沖縄の男”。英語タイトルは『The MAN From OKINAWA』・・・、これじゃ沖縄から来た男になってしまうぞ! 服部半蔵は沖縄在住だっつーの。
34■ソニー千葉こと千葉真一はタランティーノ憧れの俳優で、少年時代に日本人向けチャンネルで放送されていた英語字幕付『影の軍団』(80−85)を見て大ファンとなり、シリーズ全話を見るほどのハマリようだったとか。
35■その服部半蔵がやっている寿司屋にブライドがやってくるが、その寿司屋ののれんに書いてある名前は「すしや」・・・おいおい・・・。ここでまた「バン・バン」のイントロが流れる。
36■このシーンでブライドが着ている“オキナワ”とプリントされた、これまたそのまんまのTシャツは、『キル・ビル Vol.1 プレミアムBOX』にレプリカが封入されている。
37■服部半蔵の助手をやっている大葉健二の役は、『影の軍団IV』に登場した便利屋がま八と同じ役。
38■このシーンの千葉真一と大葉健二の日本語のやりとりはすべてアドリブ。千葉ちゃんは「どうせクエンティンは日本語わかんないんだから」とアドリブをかましまくり、思わずセリフをかんでしまったところもそのまま使われてしまった。ただし、日本語吹替え版では千葉真一本人がちゃんと言い直してます(笑)。
39■服部半蔵に「このハゲ!」と怒鳴られたがま八が「ハゲてなーい、剃ってるだけ」と言い返すのは、大葉健二が出演した『コータローまかり通る!』(84)の再現!
40■世界最高の刀鍛冶である服部半蔵最大の見せ場となるはずだったのが、まさに刀鍛冶のシーン。2ヶ月もかけてセットが組まれたのに、撮影スケジュールの遅れから撮影そのものがカットされてしまった。千葉真一もがっかりだったが、そのセットは撮影スタジオがあった北京の公園に移築されて保存されることになった。
41■服部半蔵が最高傑作と自負する刀をブライドに授けるシーンで言う「旅の途中で神と出会えば、神さえ斬るだろう・・・」というセリフは、千葉真一主演・深作欣二監督の『魔界転生』(81)から千葉真一演じる柳生十兵衛のセリフ。
42■そして物語はいよいよ『キル・ビル Vol.1』のクライマックス“第5章 青葉屋での死闘”へと突入する。日本の裏社会を牛耳っているオーレン・イシイとその部下の紹介となる。着物姿のオーレンだが、タランティーノは最初お歯黒まで付けさせようとしたが、ルーシーとスタッフが説得してやめさせたとか(笑)。
43■ジュリー・ドレフュス演じるソフィ・ファタールの説明で「『スター・トレック』の悪者に似た格好をした美女は」と出てくるが、実はタランティーノは大の『スター・トレック』ファン。
44■そのジュリー・ドレフュスはタランティーノが初来日した時にゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭で出会って以来の親友で、このソフィ役もジュリーのためにタランティーノが作ったものだった。しかもフランス語に日本語、英語も出来るジュリーは通訳やコーディネーターとして大忙しだったとか。
45■深作欣二監督の傑作『バトル・ロワイアル』を見たタランティーノが栗山千明を見初めて出演を依頼したのが、オーレン・イシイの17才のボディガード、ゴーゴー夕張。そのオマージュとして、色香で誘って男を殺すというシーンを再現している。このシーンで出てくる飲み屋は“東京バー”というこれまたベタな名前が付けられていたのに、タランティーノ本人が勝手に“ゴーゴー・バー”と呼び始めてしまったとか。このセットを気に入ったタランティーノは、自宅にまったく同じバーをつくってしまった!
46■ちなみにこのゴーゴー夕張というインパクトのある名前はタランティーノが好きな日本のアニメ『マッハGo!Go!Go!』と夕張ファンタから取られたもの。『マッハGo!Go!Go!』はアメリカでも大人気だが、タイトルは『Speed Racer』なので日本語のタイトルをわかっているなんて、さっすがタランティーノ。
47■ゴーゴー夕張の衣装のデザインはセーラー服とブレザーの2種類があり、日本側のスタッフは当然のように(?)セーラー服を推した、デザイナーの小川久美子も「日本ではセーラー服のほうがお嬢様っぽく見えるので、よけい怖く感じるのでは?」と勧めたらしいが、タランティーノは「だって日本の女子高生はブレザーがほとんどだろ!」と一蹴し、ブレザーに決定した。よくご存知で・・・(笑)。
48■オーレン・イシイを守るボディガード集団クレイジー88のボス、ジョニー・モーを演じているのは、これまたタランティーノ憧れの俳優ゴードン・リュー。少林寺映画の最高傑作といわれる『少林寺三十六房』(78)に主演した俳優で、タランティーノは初めてゴードンを演出する日、興奮して体が震えたと語っている。
49■そのジョニー・モーの役は最初の脚本だとミスター・バレルという名前で、この役にはマイケル・マドセンが想定されていた。しかし、ビルの弟バドの方が役にハマると考えたタランティーノは脚本を書き直し中国人ジョニー・モーが誕生、ゴードン・リューが演じることになった。
50■ちなみにゴードン・リューは『キル・ビル Vol.2』に中国の高僧パイ・メイの役で再び出演している。本当はパイ・メイ役はタランティーノ自身が演じるつもりだったらしいが、遅れに遅れている撮影のせいでとてもそんな余裕はなく、ゴードン・リューが演じるという、当然といえば当然の結果となった。しかしタランティーノはちゃっかり自分用のパイ・メイの衣装を作っていて、扮装して喜んでいたらしい。でもそれを見たゴードン・リューは「どう見てもサンタクロースにしか見えなかった」とあきれている(笑)。タランティーノはあの顔なので中国人は絶対に無理だと思うんだけどね。でもパイ・メイの声はタランティーノがやってます。『ジャッキー・ブラウン』の電話の声に続いての声だけの出演となった。
51■オーレンを中心としたヤクザの総会のシーン。日本人俳優が出ているが、はっきりとわからない人もいるので、ここでご紹介。首を切り落とされる田中組長に國村準、田中に食ってかかる弁田組長に菅田俊、後押しする本田組長に大門伍郎、田中にお絞りを投げつける小澤組長に麿赤児、奥にいてセリフがないかわいそうな小路組長が北村一輝となかなか豪華。
52■切り落とされた田中組長の首だが、ルーシーが持ち上げる時用の軽いものと、テーブルに落ちた時のズシリとした感じを出すための重いものの2種類が作られた。この精巧に出来た重いほうの首は、ルーシーが腰を痛めて持ち上げることが出来なかったらしい。さて、当のご本人である國村準はあまりの出来のよさに気持ち悪くなってしまい、日本に持って帰ってお払いをしたとか。
53■この田中組長の首を切りにオーレンがテーブルの上を走る時、よ〜く足元を見ているとなぜか裸足。確かに足袋を履いてテーブルの上を走ったら途中で転んでしまうかもしれないけれどね・・・。
54■首が切れた田中組長の身体から噴水のように血が噴出すのは三隅研次監督の『子連れ狼 三途の川の乳母車』(72)から。このあとのクレイジー88がブライドに斬られて一瞬の間のあとに倒れる、いかにも時代劇風の殺陣もこの映画からいただいたもの。
55■これからのシーンではルーシー・リューとユマ・サーマンのカタコト日本語が炸裂するが、とくにオーレンは子供の頃に流暢な日本語をしゃべっていたのに大人になったら日本語が下手になってるぞ!?なおDVDに収録されている日本語吹替え版はユマやルーシーが日本語でしゃべったところも声優さんが吹替えているので、なんと言っていたか今度こそはっきりとわかります(笑)。
56■ヤクザ総会の最後に英語で演説するオーレンの言葉をひと言残らず同時通訳するソフィの姿は、タランティーノが来日した時に、思わず「Fuck」を連発してしまったにもかかわらず丁寧に訳してくれた日本人通訳さんのパロディだとか。
57■沖縄から東京へ向かうブライド。不気味なくらい真っ赤な空を飛ぶ、いかにもミニチュアの飛行機。この空の色は佐藤肇監督の侵略SFの傑作『吸血鬼ゴケミドロ』(68)に出てくる空の色を再現したもの。
58■日本の特撮怪獣映画が大好きなタランティーノは、飛行機も吊ってあるピアノ線は消さないように言ったとか。夜空のシーンは『サンダ対ガイラ』の夜景のようにと指示したらしい。また本多猪四郎監督の名作ホラー『マタンゴ』(60)のオープニングとラストに出てくる夜景を意識したとの説もある。このシーンのミニチュア・セットは金子修介監督の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)で使ったミニチュアを流用したものとか。それにしてもこの飛行機、昔の香港みたいに町並みスレスレの低空飛行をしているぞ!
59■空港に張ってあるポスターや看板はタランティーノのオリジナルで、ファンにはお馴染みのレッド・アップルのタバコのモデルはソフィを演じているジュリー・ドレフュスじゃあーりませんか!
60■ブライドが乗っている飛行機で驚くのが日本刀ホルダー。飛行機の座席には必ず日本刀を納めるホルダーが完備されている。映像が高速を走るオーレン一味に切り替わると、クレイジー88が乗っているバイクにも日本刀ホルダーが完備されている。どうやら『キル・ビル』に出てくる日本では、日本人は刀を普通に持っているという設定のよう。そういえばオーレンを護衛しているゴーゴーも17才なのに自動車を運転している(笑)。
61■この一連のシーンのバックに流れているのは「グリーン・ホーネットのテーマ」。クレイジー88が付けている黒いマスクは、テレビシリーズ『グリーン・ホーネット』(66−67)で主人公の探偵グリーン・ホーネットとブルース・リー扮する助手のカトーが付けていた物。日本ではこのテレビシリーズは見られないが、再編集した劇場版『グリーン・ホーネット1&2』がDVD化されている。
62■オーレンたちが走り抜けるトンネルは実は日本ではなく、ロサンゼルスにある日本語の標識のあるトンネルを使って撮影されたとか。
63■青葉屋へ向かうソフィの車をバイクで追うブライド。この時着ているブライドのライダー・ジャケットも『死亡遊戯』(78)のブルース・リーのトラック・スーツと同じデザインだが、ヘルメットも『死亡遊戯』でブルース・リー(・・・のそっくりさん)が被っていたものと同じになっている。ちなみにブライドが乗っているバイクはKAWASAKI ZZ-R250。
64■ちなみにソフィは出演シーンのほとんどで、誰かと携帯で打ち合わせをしている。さっすが弁護士。着メロはなぜか「蛍の光」。
65■ソフィーの車をブライドが追い抜くところから、青葉屋の廊下を闊歩するオーレン・イシイ一味のバックに流れるのが、布袋寅泰の「新・仁義なき戦いのテーマ」。このスローモーションでやってくるシーンはスタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』(71)でアレックスたちが肩で風を切って歩くシーンへのオマージュという説もあるが、このカッコよさは『レザボア・ドッグス』のオープニングの「グリーン・リトル・バグ」のかっこよさに匹敵する!予告編などにも使われ、「新・仁義なき戦いのテーマ」なのに完全に「キル・ビルのテーマ」となってしまった。おかげで布袋寅泰にはイギリスからCD発売の依頼があり、インストゥルメンタル・ベスト・アルバム『Electric Samurai』で世界デビューすることが決定!
66■このシーンでオーレンは『修羅雪姫』(73)の梶芽衣子をイメージした純白の着物姿だが、タランティーノは何を考えていたのか、オーレンに日本の男物の学生服のような衣装を用意していたのだ。だがルーシーの拒否と説得により、純白の着物となった。実はルーシーは自分がボーイッシュだと思っていて、普段は過剰なほど女の子っぽい服を着ているほど。それだけに学ラン姿はいやだったらしい。なにしろ泣いて拒否したらしいから・・・。
67■オーレン・イシイたちが宴会を開く青葉屋は高級料亭だが、どういうわけか1階フロアに生バンドによるダンス・スペースがあり、とても高級料亭には入れそうもない若者が踊りまくっている。モデルとなったのは西麻布にある居酒屋“権八”。
68■青葉屋で演奏しているのは日本のガールズ・ガレージ・バンドのThe 5.6.7.8‘s。なんでも日本にやってきたタランティーノが恵比寿の雑貨屋で買い物をしていた時に、店で流れていたのが、このThe 5.6.7.8’sだった。気に入ってしまったタランティーノが店員にそのCDを譲ってくれと頼んだが、私物だったので断わられて、「タワーレコードに行けばぁ?」と言われてしまった。しかし見つけることが出来ず、再び雑貨屋にやってきたタランティーノは頼み込み、その店員は定価の倍の値段で売りつけてしまったのだとか(おいおい!)。実はその店員はThe 5.6.7.8’sの知り合いで、後にタランティーノから出演依頼の連絡が来たと聞いて、客がタランティーノだったと知ったらしい。ちなみに演奏している曲はサントラにも入っている「Woo Hoo」のほか、「I Walk Like Jane Mansfield」、「I’m Blue」の全3曲。
69■ブライドの気配に気づいたオーレンがゴーゴーに様子を見に行かせると、ブライドが天井にへばりついてるというシーンは、千葉真一主演のアクション・コメディ『直撃地獄拳 大逆転』(74)からいただいたもの。実はこのシーンNGがかなり出ている。ゴーゴー役の栗山千明が自分の真上にいるユマが落ちてくるかもしれないと思うと怖くて、所定の位置までいけずにNGになってしまったらしい。その間、ユマは栗山千明を励ましながら天井にへばりついていたんだそーな(笑)。
70■ブライドが階段を下りてくるところからソフィがトイレに入るまで(The 5.6.7.8’sが「Woo Hoo」を歌っている間)、長回しのワンカット撮影になる。長回しといえばブライアン・デ・パルマ監督の得意技で、これもオマージュ。
71■ブライドが着ている黄色いトラックスーツは前述の通り、『死亡遊戯』でブルース・リーが着たものと同じデザインだが(ブライドの場合はセパレートタイプ)、靴もブルース・リーと同じオニツカ・タイガーを復刻してちゃんと履いている。公開を記念して3400足だけ一般にも販売された。手に入れた人は超ラッキー!
72■クレイジー88のひとり(BoBAさんこと田中要次)にチャーリー・ブラウンに似ているとからかわれる青葉屋支配人は、タランティーノお気に入りの三池崇史監督『殺し屋1』の脚本家の佐藤佐吉。そしてそのチャーリー・ブラウンに「ねえチューしてぇ」と迫ったあげく、ブライドに腹を刺されて死ぬ女クレイジー88を演じているのは千葉真一の愛娘の真瀬樹理。ちなみにBOBAさんはタランティーノに会った時「君の名前は憶えてるよ!」といわれて感激したが、北京の撮影で再開した時「ハーイ、BOBO!」と呼ばれてがっかりしたそーな・・・。
73■青葉屋の死闘で真っ先に斬られるのがソフィ。左腕を切り落とされて血の海の中でのた打ち回るのだが、実は最後まで死なないので、ジュリー・ドレフュスは2ヶ月に及ぶ青葉屋の撮影の間中、ずーっと血の中に倒れていなくてはならなかった。ジュリーは「撮影は楽しかったけど、毎日血まみれで大変でした」とこぼしてました。この血糊は用途に合わせて日本製、アメリカ製、中国製の3種類が用意され、このシーンで使われたのはアメリカ製の砂糖が入った速乾性のもので、すぐ身体に張り付いてしまい、はがす時に一緒に皮膚がむけてしまったらしい(ひぇ〜!)。途中からワセリンを先に塗っておくとはがれやすいことがわかり、そうしたとか。
74■この一連のシーンでバックに流れているのはエンニオ・モリコーネの「新・夕陽のガンマン 復讐の旅」。なぜかサントラ未収録!でも『キル・ビル Vol.2』のサントラには『続・夕陽のガンマン 地獄の決闘』から「夕陽は沈む」、『さすらいのガンマン』から「ア・シルエット・オブ・ドゥーム」、『豹 ジャガー』より「決闘場」と3曲が収録されている!
75■鉄球を持って現れたゴーゴー夕張。この鉄球は『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』(75)で盲目の僧侶が使う武器がモデルで、最初は名前がなかったが、あまりに名前を聞かれるので“ゴーゴー・ボール”と名づけたらしい。そのまんまですな。栗山千明は特訓して、最後には首にチェーンをかけてゴーゴー・ボールを自在に操れるほどになったとか。
76■ゴーゴー夕張のモデルとなったのが2本のアニメーション。1本は吸血鬼ハンターの女子高生が日本刀で吸血鬼と戦う『Blood The Last Vampire』(2000)と、女子高生の殺し屋のアダルト・アニメ『A KITE』。まさにイメージ通りです。
77■ブライドにやられたゴーゴーの目から血の涙が出るのは栗山千明のアイディア。ただ斬られたところから血が出るのはおもしろくないと思って提案したんだとか。
78■実は最初の脚本ではゴーゴーにはユキという姉がいて、ブライドに復讐するというパートがあったのだが、カットされてしまった。ちなみにユキ役には『バトル・ロワイアル』つながりで柴咲コウが想定されていたんだとか!
79■オーレンを助けるために駆けつけたクレイジー88を、ブライドがたった一人で斬っていくのは『吼えろドラゴン!起てジャガー!』(69)へのオマージュ。この映画には『キル・ビル』の武術指導をしたユエン・ウー・ピンの父親であるユエン・シャオティエンも出ている。
80■刀だけではなく斧を投げるクレイジー88がいるのも『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』へのオマージュ。顔面に刺さってかなり痛そうである・・・。
81■斬って斬って斬りまくるブライド。手が飛び、足が吹っ飛び、首が落ちるという凄惨なシーンの連続だが、これも『子連れ狼 三途の川の乳母車』の血みどろの戦いを意識したもの。戦っている最中に、突然ブライドがクレイジー88の目をくりぬくという突拍子もないシーンがあるが、この謎は『キル・ビル Vol.2』を見るとわかる仕掛けになってます・・・。
82■ブライドとクレイジー88の戦いをガラスの床越しに見せるのは鈴木清順監督の『東京流れ者』(66)からのいただき。
83■戦っているなかで肩車状態のブライドから口を真横に斬られてしまうクレイジー88がいるが、タランティーノがお気に入りの『殺し屋1』で浅野忠信が演じた口が耳まで裂けている垣原にそっくり。
84■ブライドが戦っている最中にオーレンが部屋に入ってしまうところを見る一瞬だけ流れる音楽は、これまた『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』で一瞬だけ流れるNEU!の「空間美学パート2」。『片腕カンフー〜』では無断使用されていたが、タランティーノはもちろん権利を取って、一瞬だけ使用した。
85.2階の上でブライドに斬られ、階段を転げ落ちていくのはもちろん深作欣二監督の『蒲田行進曲』(82)。さすがに「銀ちゃ〜ん!」とは叫ばないけど。
86■部屋の電気が消されて青い障子をバックにシルエットだけになるのは、中野裕之監督の『SF サムライ・フィクション』(98)だが、昔のショウ・ブラザース映画にはこういうシルエットを使ったタイトルバックが多かった。
87■もう一度灯りが付いた時、ブライドの前にいたのが子供のようなクレイジー88で、怯えて降参したのをお尻ぺんぺんして説教するのは黒澤明監督の『用心棒』(60)のラストにそっくりのシーンがある。
88■クレイジー88は日本人44人と中国人44人の計88人という裏設定があるが、『キル・ビル Vol.2』では「実際にはそんなにいない」というセリフが出てくる。ところが青葉屋の女将を演じた風祭ゆきの話によると、俳優のほかにスタントマンなどがいたので実際の撮影では100人以上いたらしい。そこで、劇中では何人斬られたのか数えた人がいて、57人だったそーな!ちなみに88というのはタランティーノのラッキー・ナンバーなんだとか。
89■クレイジー88に中に、実はタランティーノが混ざっている・・・。
90■青葉屋のふすまを開けると突然に一面の雪景色という意表をつく場面転換は、鈴木清順監督お得意の手法で、これは『関東無宿』(63)のオマージュ。
91■雪の庭園で純白の着物の女性の死闘といえば、これはもちろん『修羅雪姫』への大オマージュ。でもついさっきまで雪なんか降ってなかったじゃん!
92■でもなぜかこの純日本風の戦いのバックに流れるのはラテン・アレンジのサンタ・エスメラルダ版「悲しき願い」のロングバージョン・・・のイントロのみ(笑)。
93■実はこの雪、塩で出来ている。映画の撮影ではありがちな手法なんだけれどね。
94■ルーシーがもうひとつ嫌がったのが、オーレンの死に方。見た方ならわかると思いますが、やっぱちょっとねぇ・・・。
95■そのオーレンが死ぬところから流れるのが『修羅雪姫』の主題歌で、梶芽衣子姐さんが歌う「修羅の花」。エンド・クレジットでは『女囚さそり』から「恨み節」も流れる(実は『キル・ビル Vol.2』でもエンド・クレジットで流れるので、『Vol.2』のサントラに収録されている!)。海外の人はどういう風に感じるんだろうか?やっぱワールド・ミュージックとして聴いたんだろうか・・・?
96■オーレンとの戦いが終わり、飛行機のなかで復讐リストを作るブライド。ここで毒ヘビ暗殺団のおさらいがあるが、この5人の暗殺団のモデルはショウ・ブラザースの『五毒』(78)という映画に登場する5人の毒を持つ生物の名が付いた殺し屋集団。
97■ラストに登場するビルと会話するブライドのモノクロシーン。よく見ると、ブライドのイアリングだけ青く色が付いている。
98■エンド・クレジットにブライドのキャラクターを作ったのはQ&Uとあるが、これはブライドのキャラクターが『パルプ・フィクション』撮影中にユマとタランティーノが話しているうちに盛り上がって出来たことから。それなのにタランティーノはすっかり忘れてしまい、後にユマに「あの企画はどうなってるのよ!」と詰め寄られ、あわてて書き始めたとか。最初はユマの誕生日のプレゼントにしようと考えたらしいが、結局間に合わず、「ちゃんと書いてるよ!」というメモを渡したんだとか。ところがいざ撮影となった時にユマの妊娠が発覚、出産が終わるのを待って撮影が始められた。だが出産直後のユマはかなり太っていたらしいが、さすが女優ということで、トレーニングを積むうちに劇中のようなスマートなユマに戻ったらしい。
99■『キル・ビル Vol.1』は日本版とアメリカ版ではバージョンが違っている。青葉屋での血みどろの死闘がアメリカ版ではモノクロになっているが、これはこれでスタイリッシュでカッコいい映像になっているらしい。また残酷なシーンが多少編集されていて、日本版113分に対してアメリカ公開版は111分と若干短い。
100■エンド・クレジットの最後の方をよく見てみると、Special Thanksの下のほうに、“And R.I.P.”というところがある。この“R.I.P.”とは“Rest in Peace=安らかに眠れ”という意味で、タランティーノが敬愛する故人の名前が並んでいる。チャールズ・ブロンソン(男気俳優ナンバーワン)、チャン・ツェー(ショウ・ブラザースの名監督)、深作欣二(日本バイオレンス映画の巨匠)、ロー・リエ(パイ・メイを演じた香港の名優)、勝新太郎(元祖座頭市でお馴染みの日本が誇る名優)、ウィリアム・ウィットニー(タランティーノが今いちばんハマっているB級映画専門監督)。
101■それなのにSpecial Thanksで入っている深作健太のクレジットが“BENTA FUKASAKU”になってる・・・。ちゃんちゃん!

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